1.概要編
1.1 認証対象敷地
認証申請者 :三井住友海上火災保険株式会社
対象敷地:三井住友海上火災保険株式会社本社ビル敷地
敷地用途:事務所等(用途タイプO)
所在地:東京都千代田区神田駿河台3-9及び3-11-1
敷地面積等:敷地面積17,387㎡ 緑化面積7,189㎡
1.2 敷地雨水活用性能の概要
本敷地は東京都心部にある規模の大きい敷地であり、公道を介して2つの敷地を合わせて一つの対象地として評価した。雨水活用の特徴は、屋上の緑化に努めていることと、大きな地下型雨水貯留槽を有し、高い蓄雨性能を有している点にある。また、建設時期から25年ほど経過しており、その間、維持管理が適切に行われてきたことが認められる。雨水活用において改善の余地はあるが、環境への総合的な取り組みが高く評価された。
1.3 認証に至る経緯
2017年
7月14日 事前相談開始
9月12日 事前審査 現場確認 申請資料打ち合わせ
9月26日~ 申請資料の送付受取、質疑
10月29日 申請受付
10月17日 認証委員会開催:委員7名(うち1名欠席) 於:建築会館会議室
10月19日 委員会の意見を踏まえて申請者への追加質問
11月27日 委員会の指摘に基づき、委員会事務局の検討を経て事業者への質問
12月5日 回答1、その後も継続して質疑を重ねた
12月7日 評価状況報告と最終確認:認証委員事務局3名、於:三井住友海上本社会議室
12月12日 最終確認の回答受領
12月19日 認証委員事務局による最終案
12月20日 認証委員に認証案の承諾依頼
12月22日 理事会承諾願
12月25日 認証通知送付
2018年
1月13日 認証証授与
2.評価編
RaCS雨水活用評価基準★に基づき下記の通り評価を行った。
第一章 蓄雨評価
サイト認証の基本となる評価として位置付ける
1.治水蓄雨
AIJES雨水活用技術規準に基づいて評価
敷地貯留量=①貯留槽容量+②緑化容量(緑化面積×緑化蓄雨係数*)
治水蓄雨高=敷地貯留量÷敷地面積
*緑化蓄雨係数(RaCS技術基準別表による)
敷地蓄雨高:基本蓄雨高100㎜
貯留槽容量:3,500㎥
基本蓄雨高対策量;敷地面積11,970㎡×100㎜÷1000=1,197㎥
蓄雨率;3,500㎥÷1,197㎥×100=292% 292㎜対応
緑化容量:緑化率41.6%
緑化蓄雨高;緑地面積割合41.6%×蓄雨蓄雨係数0.5=20.8㎜
緑化蓄雨量;20.8㎜÷1000×11,970㎡(敷地面積)=249㎥
治水蓄雨高
292㎜+20.8㎜=312㎜
2.利水蓄雨
AIJES雨水活用建築ガイドラインP30で設定している用途水質レベルに合わせて評価項目を以下の5点とし、NPO基準として設定した
それぞれの項目について、取り組んでいるかを〇×としてその数をポイントとした
浸透・雨池等 〇
散水等 〇
清掃等 〇
トイレ等 〇
飲用・風呂等 ×
NPO基準による評価: 評価:4ポイント
3.防災蓄雨
AIJES雨水活用技術規準に基づき評価した
受槽120㎥は非常時対応として見込める
雨水貯留槽で賄える量として、連通管下150㎜取れているとして
満水水深1,500㎜に対して、10%を見込む
3,500㎥×10%=350㎥程度は常時確保
防災蓄雨量:
120㎥+350㎥=470㎥
利用人員:常時4,800人 非常時受入1,100人
必要量: 50ℓ×3日×(4,800+1,100)÷1000=885㎥
利用人員比 470㎥÷885㎥×100=53.1%
NPO基準による評価: 評価:2ポイント
4.環境蓄雨
AIJES雨水活用技術規準による
① 土地利用形態による年間蓄雨高算定
敷地の平均蓄雨係数×年間平均降水量(1,600㎜とする)
緑化部分41.6%×0.8(蓄雨係数)=33.28㎜
不浸透部分58.4%×0.1(蓄雨係数)=5.84㎜
(33.28+5.84)÷100=0.3912
1,600㎜×0.3912=626㎜
②浸透施設による年間蓄雨高の算定
*浸透桝等の浸透施設はない
レインガーデンを算定浸透施設の規準から計算
浸透高=浸透桝(0.66㎜/個)+浸透トレンチ(0.29㎜/m)
*1,125㎡値(規準より)÷17,395㎡=0.065 敷地補正係数
レインガーデン 幅0.8×長さ4m×2として
トレンチ0.29㎜/m×(800÷400)×8m=4.64㎜
4.64×0.065=0.3㎜
環境蓄雨高=①+②
①626㎜+②0=626㎜
年間水収支 626÷1,600×100=39%
年間降水量の3分の2を目標値として5段階評価する
東京市街化地域の推奨値として
1
2
3
4
5
20%未満
20%以上
33%以上
50%以上
67%以上
評価:3ポイント
第二章 雨水活用評価
AIJES雨水活用技術規準は、住宅用の簡易評価リストのため、大規模事業所に適合していない。今回は、技術規準に準じてRaCSが独自に作成した評価チェックリストによる
2-1.雨水収支評価
低炭素評価などと方法を同じくするために、AIJES雨水活用技術規準に基づく定性的定量
評価を用いる。
AIJES規準では15項目あるが、これを以下の5項目に整理した
評価項目:
① 浸透ますなどの雨水浸透施設がある ×
② 屋根や壁面などの建築緑化を行っている 〇
③ 雨水をトイレなどに利用している 〇
④ 雨水を用いた池やビオトープなどがある ×
⑤ 花壇や樹木などを用いた庭がある 〇
各項目のポイント合計
評価:3ポイント
2-2.低炭素評価
AIJES雨水活用技術規準にあるライフサイクルアセスメントは行わない
簡易評価表を用いるが、住宅用につくられているため、別途今回に適した項目を設定した評価項目:
①植栽の潅水に雨水を用いているか 〇
②トイレなどの雨水利用で節水対策を行っているか 〇
③屋根の冷却用に雨水を用いているか ×
④雨水設備に自然エネルギーを用いているか ×
⑤雨水施設に低炭素配慮の材料を用いているか ×
各項目のポイント合計
評価:2ポイント
2-3.コスト評価
AIJES技術規準P56の簡易評価表をもとに今回施設用に項目を設定して評価
評価項目:
①雨水施設導入に当たってコスト評価を行ったか 〇
②雨水施設導入に当たって助成制度等を利用したか ×
③エネルギー消費の少ない機器を選定しているか 〇
④長寿命の製品を選択しているか 〇
⑤維持管理に適切なコストをかけているか 〇
各項目のポイント合計
評価:4ポイント
2-4.感性評価
技術規準P58の簡易評価表をもとに今回施設用に項目を設定して評価
評価項目:
①雨水を見て感じることのできる雨池などがある 〇
②雨水を活かした雨にわなどで四季を感じることができる 〇
②雨水の環境教育の場となっている 〇
③一般にもわかるような雨水の案内看板がある 〇
④ネット等で広く情報発信している 〇
各項目のポイント合計
評価:5ポイント
2-5.要素技術評価
AIJESガイドラインP60の5.5.2要素技術チェックリストにより評価
T1レベルに相当
評価:4ポイント
2-6.総合評価
AIJESガイドラインP61の総合評価によるランク付けはここでは行わない
第三章 ガイドライン評価
AIJES雨水活用建築ガイドラインの構成に基づく評価を行う
現場確認とヒアリングにより判定した
3-1.設計
ガイドラインに謳われている内容から重要な項目を評価項目とした
評価項目:
雨水利用に取り組んでいるか →〇トイレに利用
地理条件を踏まえた設計を行っているか →〇傾斜地での浸透を抑えている
微気象を考慮した設計配慮ができているか→〇屋上緑化、壁面緑化などを多用
雨水活用の理念が踏まえられているか →〇利用にとどまらない生態系配慮を実行
雨水を独立水系としてシステム化している→×雑用水としての扱い
4ポイント
3-2.製品
ガイドラインに謳われている内容から重要な項目を評価項目とした
評価項目:
①集雨 →〇一般的な集水システムが用いられている
②保雨 →〇地下貯留槽は十分な容量を持ち、連通管も正しく設置されている
③配雨 →〇JISに基づく製品が用いられている
④整雨 →〇貯留槽が多槽型であり、沈殿機能を持っている
⑤制菌 →〇消毒設備が備えられている
以上の項目のポイントを加算する
5ポイント
3-3.施工
ガイドラインに謳われている内容から重要な項目を評価項目とした
評価項目:
クロスコネクション →〇問題なし
吐水口空間 →〇確保されている
防振、防音 →〇地下の機械室にて対処できている
凍結防止 →〇地下貯留槽であり問題はない
耐震 →〇地下躯体に一体化されており問題ない
以上の項目のポイントを加算する
5ポイント
3-4.運用
雨水施設の維持管理が適切に行われているかどうか、ヒアリングを行った
雨水設備について、ビル管理のメンテナンスの一環として実施している
維持管理内容:雨水ポンプ点検(1回/3ヵ月)、急速砂ろ過器点検(1回/週)、
砂ろ過器逆洗(適宜)、散水用給水ポンプユニット(1回/週)
評価項目:
①外注不定期
②外注
③不具合があった場合に随時点検
④定期点検
⑤常駐管理
これらのうち⑤の管理がなされていると判断した
5ポイント
第四章 その他の取組
4-1.社会貢献活動
NPOの基準として以下の項目を拾った
評価項目:
施設の公開性があるか 〇
積極的なPRを行っているか 〇
雨水の環境教育に寄与しているか 〇
参加できる場があるか 〇
継続的な活動ができているか 〇
評価:5ポイント
4-2.特筆事項
NPOの基準として以下の項目を拾った
評価項目:
1.基本蓄雨高100㎜を大きくクリアしている(312㎜)
2.非常用水への対応として千代田区と協定を交わしている
3.ビジターセンターを設けて環境教育に取り組んでおり、雨水のPRも行っている
4.敷地外の区道において浸透対策、緑化を行っている
(お茶の水駅から太田姫神社の角までの歩道を透水性舗装している)
5.レインガーデンを試行してPRしている
評価:5ポイント
■所見と改善提案
1.総合評価
総合的に優れた雨水活用サイトと評価できる。
しかし、基本となる第一章の蓄雨性能についての得点は4項目平均で3.5と高くない。
その原因は防災蓄雨と環境蓄雨のポイントが伸びなかった点にある。
防災蓄雨は施設改善の余地があり、見方によっては状況次第でもっと性能が高くなる
が、改善の余地はある。
環境蓄雨は浸透施設が見込めなかった点が大きい。
第二章も平均で3.6と高くない。
第三章は大規模建築であり、一般的な品質レベルをクリアしている。
第四章で高得点が取れており、重みづけが大きかったために総合点で高評価となった。
緑化がかなりできていることから、もっと総合点がよくてもよいように見えたが、もともと雨水への取組が意識されていなかった点がマイナスとなった。
とはいえ、建設時期の状況からみると、特区で導入した雨水流出抑制や区道を取り込んだ浸透対策などが結果的に高得点に結びついた。
特筆事項の中でも、「エコム駿河台」や屋上庭園、菜園の開放など、環境教育を通した地域貢献は高く評価できる。
2.改善できる点
-1.利水
雨水を用いている用途のうち、緑化については下水道料金の対象外であることから、計量を明確にすれば経費削減につながる。
-2.防災
治水蓄雨には余裕があり、緑化蓄雨に相当する分は流出抑制から外すことが可能となる。その分を、防災蓄雨に回すべく、貯留槽の一部を貯留してオーバーフローするように改修するとよい。費用はローコストで施工可能といえる。
-3.環境蓄雨
浸透対策が乏しいが、区道では行っており、浸透不適地ではない。現在試行しているレインガーデンの性能をより高めたり、バイオスウェル(緑溝)を設けるなどにより改善できる。
その際、雨にわとして美しいデザインにすることで、感性評価も高め、生物多様性にも寄与できる。
-4.グリーンインフラへの取組
緑の認証、生き物の認証に続き、雨水の認証を得られたことで、今後、グリーンインフ
ラ認証につなげることができる。
第3章 資料編